高麗人参の栽培方法とは。秘められた生産者の苦労
2020.11.1高麗人参
高麗人参は古くから「あらゆる病気に効く万能薬」として伝承されたきた生薬です。
しかしそのあまりの貴重さゆえ、王族や貴族など上流階級のごく限られた人々しか手にする機会はありませんでした。
現代においても高麗人参は体力低下時、病後術後の回復期、ストレスが溜まっている時など、日々家事や仕事に追われる人の健康をサポートしています。
しかし、唯一の欠点はその価格の高さ。
価格の高さは高麗人参の栽培の難しさ、それによる収穫量の少なさに起因しています。高麗人参が未だに高級品として扱われるのには、れっきとした理由があるのです。
今回は高麗人参栽培に秘められた生産者の苦労を交えながら、なぜ未だに高級品としての地位を保ち続けるのか、その理由を述べていきます。
栽培期間の長さ
高麗人参は作物のなかでも、とりわけ栽培期間が長い植物です。
まず、種まきをするまでの準備に2年、生育に6年、収穫後は連作ができず畑を10年休ませなければなりません。
つまり、一旦収穫したら次に高麗人参が穫れるまで18年もの歳月を要します。
日常的に私たちの食卓に並ぶ同じオレンジ色のセリ科のニンジンは種まきから収穫までが4か月程度。
作物の中でも収穫までが長いといわれるゴボウやサトイモでさえも6か月です。
高麗人参の栽培期間の長さが桁違いであることは言うまでもありません。
種まきまでの2年間、生産者は準備期間としてひたすら腐葉土を畑に撒き、耕す工程を20回以上繰り返します。
この土づくりが、その後の高麗人参の生育に大きく関わってくるからです。
高麗人参は一度植えると、その土地で6年間を過ごすため、栄養分豊富な柔らかい土壌つくりに生産者は最も力を注いでいます。
栽培の難しさ
原産地の韓国では、高麗人参の栽培は「子育て以上の苦労」「高麗人参は主人の足音を聞いて育つ」といった格言があるほど手間のかかるものです。
高麗人参の生育条件は水はけ、温度管理、病虫害、光の強さのどれかが欠けても成り立ちません。
高麗人参の収穫は、生産者の過酷ともいえる苦労の末の証なのです。
土壌の水はけ
高麗人参はもともと朝鮮や中国の山間に自生していた植物です。
山間の程よい傾斜は水はけが良く、高麗人参の生育条件に適していたのです。
高麗人参は保水性、排水性の両方を兼ね備えた土地でないと、うまく育つことができません。
水分が抜けきらない土地では、根腐れを起こしてしまうためです。土壌栽培の畑では、排水性が良くなるよう畦(うね)を高めに作っています。
栽培を行う生産者の多くは、畦が崩れたら盛り直す作業を何年も繰り返しながら根腐れには細心の注意を払っているのです。
温度管理
高麗人参は比較的涼しい場所でないと育ちません。適正温度は18~21度程度です。25度を越えると根から栄養分が抜け落ち、品質が損なわれてしまいます。
そのため、夏場は温度が上がらないように生産者が日よけをかけて守ります。一方、冬場は冷害や大雪にも注意が必要であり、一年中気を抜くことは許されません。
虫による被害
病虫害は高麗人参を天塩にかけて育ててきた生産者を脅かす存在です。積年の思いで5年間育てあげた高麗人参が6年目に病虫害に遭い廃棄される、というケースも珍しくありません。最近では薬剤散布による病虫害予防策も施されていますが、残留農薬を懸念する声も出ています。そのため無農薬栽培で収穫された高麗人参は、より希少価値の高いものとして取引されています。
光の調整
高麗人参は強い直射日光を嫌います。葉や枝が鬱そうと茂る山間部で自生していた高麗人参は「半陰地性植物」です。強い日差しは葉焼けの原因となり、木陰ほどの日差しを保たねばなりません。
そのため、畑では毎朝9時を過ぎると日覆いを被せ、光を当てないよう作業が行われます。
こうした生産者の苦労があり、初めて高麗人参は地中深くに根を伸ばしていくことができるのです。
まとめ
高麗人参が高級品として扱われる理由は栽培期間と条件の難しさ、それに伴う収穫量の少なさであることをお話ししました。
膨大な月日と手間をかけて栽培しても、収穫量は種まき全体の4割から6割にとどまることもあり、高麗人参の耕作は「投機より投機」とさえ呼ばれることもあります。
そのような難しい条件を生き抜き、たっぷりと土壌から栄養を蓄えた高麗人参は、実に希少価値が高いものなのです。生産者たちの思いが詰まった高麗人参は、人々の健康をこれからも強力にサポートしてくれるに違いありません。
参考文献
高麗人参の神秘に迫る 真田元治著
生薬の王様 高麗人参の世界 洪 南基著