水耕栽培と閉鎖型苗育成施設の併用
2021.06.18水耕栽培
水耕栽培は温室などの栽培施設と併用されることが多く、露地栽培などに比べると栽培に関わるコストが大きくなるという問題があります。
そこで、水耕栽培では閉鎖型苗育成施設との併用により、栽培施設の利用効率を向上させて収益性を高める試みがおこなわれています。
水耕栽培施設の利用効率と収益
水耕栽培を含む養液栽培は多くの場合、栽培施設(温室での栽培)内でおこなわれることが多いため、施設建設などの費用がかかります。そこで、施設を有効利用するため「いかに1年の作付回数(野菜などを生産する回数)を増やせるか」という点が収益性の鍵となってきます。
1年間の作付回数を増やすために
- 生育の良い苗を揃え、水耕栽培施設での生育期間を短くする
- 計画的に苗を用意し、水耕栽培施設が利用されない期間を短くする
というような工夫がおこなわれています。
なぜ苗が重要か
農作物栽培においては「苗半作:苗管理の良し悪しがその後の生育を大きく左右する」と言われるほど、育苗作業は重要です。
苗の生育を決める要因は「光」「温度」「水分条件」であるといわれ、これらの適切な管理が重要です。なかでも「光」や「温度」条件については、育苗を行う季節により異なるのが現実であり、トマトにおける育苗日数を例にとると、通常は「70日」である一方、夏に育苗を行った場合には「40日」と大きく異なってくる*1ことが知られています。
また育苗日数のみでなく、苗の品質も育苗期間の生育条件により大きく左右されます。さらに、水耕栽培施設などへの移植(植え替え)後の生育にも影響を及ぼします。
そこで、近年利用が進められているのが水耕栽培等の生産施設と閉鎖型苗育成施設の併用による農作物栽培です。
閉鎖型苗育成施設と利用例
閉鎖型苗育成施設とは
閉鎖型苗育成施設は人工光により苗を育成する施設であり、「光合成促進用のCO2施用装置」「かん水装置」および「環境制御装置(蛍光灯や空調など)」が備えられています。
完全人工光型植物工場(内部リンク)と似た構造をしており、苗の生育環境を人為的にコントロールすることが可能であるため、苗の生育に適した環境条件を作りだして品質の良い苗を生産することが可能です。さらに、環境条件を制御していることから育苗日数も変化が少なく、計画的に苗を用意することも可能です。
葉菜類(ホウレンソウ)の事例*2
ホウレンソウの育苗では「気温条件」が重要であるといわれています。
- 通常のハウス:(高温期)12~14日、(低温期)25~30日
- 閉鎖型苗育成施設:(年中)10~12日
このように閉鎖型苗育成施設を利用した場合、気温を制御できることから育苗日数は年中通じて安定しており、水耕栽培施設の利用計画を立てやすいという利点があるとされます。
さらに水耕栽培施設に移植した後の生育もよく、7月~8月に定植した場合は通常のハウスで生産した苗では収穫に「17日」要した一方、閉鎖型苗育成施設を利用した苗では「13日」で収穫可能となったことが報告されています。さらに、閉鎖型苗育成施設で生産された苗は生育が良いといわれています。
花卉(トルコギキョウ)の事例*3
トルコギキョウは、播種から収穫までに6か月以上を要するため、年2作以上おこなうことが困難といわれていました。
そこで、閉鎖型育苗施設を利用して短期間で大苗を育成し、水耕栽培施設に移植することで、同一施設において年3作実施することが可能となる栽培法が開発されています。
閉鎖型苗育成施設により、水耕栽培圃場の利用効率が上がる
水耕栽培において、閉鎖型苗育成施設を併用する利点として
- 苗の安定供給:水耕栽培施設の利用計画が立てやすい
- 苗の品質向上:水耕栽培への移植後の生育が早い
このような点が挙げられ、水耕栽培施設の利用効率を上げて収益性を高めることが可能になるとともに
- 生産物の周年供給も可能
になることから、年中出荷することが可能となります。さらに、端境期(出荷量が少ない時期)にも出荷できるため出荷単価が高くなり、収益性のさらなる向上も可能になる技術といえるでしょう。
参照元:
*1 伊東正監修.新版そ菜園芸.社団法人全国農業改良普及協会. 2003年
*2 古在豊樹・板本利隆・岡部勝美・大山克己共著.最新の苗生産実用技術.社団法人農業電化協会.2005年
*3 https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/080058.html