野菜以外の園芸作物における水耕栽培の活用
2021.06.18水耕栽培
水耕栽培は葉菜類(リーフレタスなど)を中心に、野菜の生産において活用されていることをこれまで紹介してきました。
今回は野菜以外の農作物にも焦点をあて、花きや果樹の生産における水耕栽培を含む養液栽培技術の活用例をみていきます。
花き(花)生産における水耕栽培の現状
花き(花)の栽培においては水耕栽培を含む養液栽培の利用が進んでおり、バラやトルコギキョウを中心に比較的多くの生産現場で活用されています。
バラにおける活用例
バラの場合は水耕栽培の利用例も報告*1はあるものの、大半はロックウールを固形培地として利用した固形培地耕であることが多いようです。ちなみに、水耕も固形培地耕も肥料成分を溶かした培養液を利用しており、これらをまとめて「養液栽培」と呼びます(水耕栽培と固形培地耕の違い)。
ロックウール耕を含めた養液栽培で見た場合、広島県では全栽培面積の79%において養液栽培が利用されているとの報告があります*2。
この理由としては「施肥や灌水がマニュアル化されており、土耕栽培と比較して大規模化が可能なこと」が挙げられています。
水耕栽培を含む養液栽培では水に肥料成分を溶かした培養液を利用するため、土耕栽培のようにもともと存在する肥料成分の量や土壌への吸着を考慮する必要がなく、比較的マニュアル化しやすいためであると考えられます。
トルコギキョウにおける活用例
トルコギキョウの場合は連作障害が発生しやすいことから、同一の畑で連作を続けることは困難といわれています。さらに、花きの多くは周年供給(1年中供給する)も求められており、トルコギキョウの場合も例外ではありません。
この問題に対しNFT(薄膜)水耕栽培の技術と温室内の環境制御技術を併用することにより、トルコギキョウの周年供給を可能にするための研究が進められています*3。
- NFT水耕栽培:連作障害の回避に
- 温室内の環境制御:トルコギキョウの生育促進のため
このような点から連作障害を回避し、周年供給を可能にするための技術の1つとして水耕栽培は利用されています。
果樹生産における水耕栽培の現状
- 苗木定植後、収穫までの期間が長い(安定生産までは数年を要することが多い)
- 1つの樹体を用い、数十年にわたり生産をおこなう
- 土壌に伸びる根は、養分吸収のみでなく植物体の支持(倒れないようにするなど)もおこな
果樹の場合、このような点から、水耕栽培を含む養液栽培の普及は野菜や花卉に比べると進んでいないのが現実です。
一方、果樹の中でも比較的小型な果樹であるブルーベリーでは、導入に向け研究が進められています。
ブルーベリーにおける活用例
既存の養液栽培施設(トマトの養液栽培を目的とした施設)を利用しない期間(冬場~翌春)におけるブルーベリーの栽培を実証した研究では、屋外で生育させた場合に比べ早期出荷が可能となり、果実の出荷単価が向上したとの報告があります*4。
他にもハウス内で養液栽培を実施した結果、屋外に比べ生育が優れ、収穫量が約5倍に達したとの報告*5もあります。
花き栽培の分野では活用が期待される
果樹の分野では、水耕栽培を含む養液栽培の利用はあまり進んでいないのが現実であり、近年利用可能性の研究が始まった段階といえます。
果樹の場合は生育年数が長く、1つの栽培施設を長期間に渡り占有してしまううえに、収穫までに長期間を要します。施設コストなどの早期回収が必要な施設栽培において、収穫まで長期間を要することは普及拡大には大きな問題となっているのが現実です。ブルーベリーなど比較的小型な果樹では普及が進む可能性があるかもしれません。
一方、花きの分野では多くの品目で利用が進められており
- 施肥管理のマニュアル化が可能
- 連作障害の回避が可能
このような水耕栽培のメリットを活かした活用が進められており、今後さらに活用の拡大が期待できる分野といえるでしょう。
参照元:
*1 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1702/spe1_04.html
*2 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030782804.pdf
*3 https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nivfs/2017/17_050.html
*4 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010731092.pdf
*5 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010920951.pdf