野菜の周年供給に大きな役割を果たす水耕栽培
2021.02.16水耕栽培
現在、食の多様化に伴って野菜の周年供給が求められています。
この周年供給を達成するため、1種類の野菜でも栽培方法は多岐にわたり、露地(野外)栽培から温室内での促成栽培など、多様な栽培体型が確立されています。そして、水耕栽培を併用した栽培施設もまた、野菜の周年供給に大きな役割を果たしています。
今回のコラムでは、その導入事例を紹介していきます。
野菜類周年供給の実際
トマトやキュウリなどの果菜類、ホウレンソウやサラダ菜などの葉菜類まで、現在では年中スーパー等で購入することが可能です。
このように通年にわたって野菜を手に入れることができるようになった背景には、苗を植える時期の調整やビニルハウスをはじめとした温室内の加温などにより、どのような時期でも栽培がおこなえるようにする多様な工夫があります。
例えばトマトの場合、露地(野外)では、5月頃に定植して7月~10月にかけ収穫が行われます。また、サラダ菜の場合は4月~9月に定植し、6月~11月にかけて収穫が可能です。
一方、その他の時期については低温による生育不良を防ぐため、温室が利用されることが一般的です。
しかし、温室内での栽培では連作障害や塩類集積が問題となります。
水耕栽培と温室の組み合わせ
水耕栽培を含む養液栽培の最大の特徴は、土壌を利用していないことから培養液を入れ替えることができ、連作障害や塩類集積が発生しにくい点です(詳しくはこちら:連作障害・塩類集積)。
この水耕栽培に生育環境を管理することが可能な温室を組み合わせることで、単一の野菜を周年的に栽培することのできる施設が多く作られ始めています。
実際、トマトではトマトの連作障害を回避や低段密植栽培によるトマトの周年供給のため、水耕栽培を含む養液栽培が多く活用され始めています。
植物工場と呼ばれる新たな栽培法と水耕栽培
現在、新たな農作物栽培施設の形態として「植物工場」と呼ばれる施設の開発がすすんでいます。この栽培法における培地には、水耕栽培が多く用いられています。特に人工光型植物工場は、
- 土壌を利用せず(連作障害・塩類集積の心配がない)
- 気温や日長を人為的に調整可能(季節を選ばず栽培でき、周年供給できる)
- 設置場所を選ばない(都市近郊でも栽培を行うことができる)
という特徴があります。
実際にサラダ菜をはじめとしたリーフレタス類では、人工光型植物工場における栽培が多くおこなわれ始めています。この「人工光型植物工場」は外環境の影響を受けないため、毎日安定的な出荷が可能であり、1年を通して新鮮な野菜を市場や飲食店向けに供給することが可能となってきています。
施設栽培における周年栽培や収量増加に、水耕栽培が一役買っている
多くの野菜において、温室や植物工場をはじめとした多様な栽培施設を利用し、野菜の生育環境(温度など)を調整することで、年間を通じた出荷(周年供給)が可能となってきています。
一方、施設内での栽培で土耕栽培を用いた場合、雨が降らないために塩類集積などの新たな問題が生じる可能性があります。しかし、水耕栽培では塩類集積などの問題が生じることがありませんから施設内での野菜生育の培地として、今後、さらに利用が広がる可能性のある技術といえます。
また、人工光型植物工場では栽培ベットを多段に積み重ね、土地を立体的に利用できることから、土地利用効率が格段に上昇することが特徴といえるでしょう。
また、この栽培ベットの培地には、よく水耕栽培が用いられます。
このことから、水耕栽培の技術は単位面積あたりの収穫量増加にも一役かっていると考えることができるでしょう。
次回のコラムでは、水耕栽培と農作物の収量との関係について、紹介していきます。