ヨーロッパの水耕栽培

2021.02.5水耕栽培

水耕栽培は日本で実用化された技術であることを以前紹介しましたが、この水耕栽培や固形培地耕を含めた養液栽培は、ヨーロッパでも広く利活用が進んでいます。
そこで今回のコラムでは、園芸先進国といわれているオランダにおける水耕栽培を含む養液栽培の利活用例や今後新たに水耕栽培の利活用が期待される事例について紹介していきます。

施設園芸先進国オランダでは、果菜類を中心に導入が進む

施設園芸の先進国として知られるオランダでは、トマトやキュウリ、およびパプリカを中心に施設園芸(温室内等での栽培)がおこなわれており、トマトの10a当たりの収量(収穫量)は日本の10t~15tに対し、オランダでは50tを超える収量を達成しています。このように日本に比べ、非常に多収量あることが特徴的です。

この温室施設内では旧来の土耕栽培ではなく、水耕栽培やロックウールなどを用いた固形培地耕栽培といった「養液栽培」の技術が多く利用されています。

オランダにおける多収性の要因は複数考えられますが、土耕栽培では一般に肥料成分を適宜調整することが困難である一方(肥料成分が土壌に吸着保持されるため)、養液栽培では培養液中の肥料成分量を適宜調整することが可能です。

そのため、コンピュータを用いて肥料組成を精密に制御していることが1つの理由であると考えられ、養液栽培が多収量に一役かっていると考えられます。

なお、養液栽培の利用による肥料分の精密制御以外にも植物体の仕立て方やその他の環境条件(温室内の温度や二酸化炭素濃度)の精密制御がオランダにおけるトマトの多収性に繋がっていると考えられています。

アクアポニックス:水耕栽培と養殖の融合

また、2015年のミラノ万博におけるベルギー館では、水耕栽培の技術を応用したアクアポニックスと呼ばれる新たな栽培体系が紹介されていました(こちら)。

この「アクアポニックス」とは、魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた新たな食糧生産方法のことをさします。

養殖魚の排泄物を微生物分解し、この分解物を植物生育のための肥料として利用することで化学肥料を使用せずに植物を生育させることができる点から、有機栽培野菜等として出荷することもでき、今後注目される可能性がある栽培法と言えるでしょう。

ショーケースのような栽培施設

さらに水耕栽培では、土壌が不要であることからどのような場所でも利用することができます。
この特徴を活用し、ドイツの企業infarm社では、水耕栽培を利用した新たな栽培システムを開発しています。
専用の栽培ユニットを垂直に積み重ねることで省スペースでの栽培をおこなうことを可能とするとともに、この栽培システムでは水耕栽培の技術を併用することで土を使用せずに野菜の栽培をおこなうことができるようになっています。
さらに、ショーケースのような形状をしていることから、店舗内などでも展示しながら野菜の販売もできるというように、新たな農業の形として期待されているシステムです。

水耕栽培は多様な利活用が可能な技術

今回はヨーロッパでの利活用例を紹介しましたが、これらの例は現在、世界各地でも盛んに研究が行われ、実用化が進められている利活用例です。

まず、水耕栽培の培養液成分の調整が可能という特徴を生かし、
・多収量性を実現する
このことに向けて研究がすすめられ、現在では10aあたり50tを超える収量を実現しています。

また土壌が不要であり、どのような場所でも利用できるという特徴を生かすことで、
・養殖との融合
・ショーケースのような形態の栽培システムの開発
このような新たな活用法が考案されています。
このことから、水耕栽培は今後さらに活用される場面が増える技術といえるでしょう。


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