水耕栽培で育った野菜は安全か?
2020.12.28水耕栽培
近年普及が進みつつある水耕栽培ですが、インターネット上で水耕栽培について検索すると類推されるキーワードとして“危険”という言葉が出てきます。
結論から言えば、水耕栽培で適切に育てられた野菜に危険ということはありません。
そこで、今回のコラムでは「水耕栽培」で栽培された野菜類の安全性について紹介していきます。
どのような点が“危険かもしれない”と感じられているのでしょうか?
“水耕栽培”と“危険”というキーワードで調べてみると
- 水耕栽培の培養液に使われる“液体肥料”が危険なのではないか?
- 水耕栽培で育てられた野菜は“病気に弱い”のではないか?
という点について、多く検索されています。
そのため、今回はこの2つの疑問点について一般的な土耕栽培(土を使った栽培)と比較していきます。
“液体肥料”は危険なのか?
野菜などの植物を正常に生育するためには
- 窒素
- リン
- カリウム
の三要素に加え、カルシウム、マグネシウムなど、多様な要素を必要とします。
水耕栽培で野菜を生育させる場合、培養液を作るために使われる水はこれらの要素をほとんど含みません。そのため、液体肥料や粉末状の肥料を溶かすことで培養液を作成します。
一方、土耕栽培(通常の土壌での栽培)でも、これらの要素について、土壌に含まれている量で不足する場合は人工的に肥料を施用します(窒素・リン・カリウムの3要素については、多量に必要なため、施肥をしない例はほぼありません)。さらに、水耕栽培用であっても、土耕栽培用であっても、肥料の原料は変わりません。
このことから、水耕栽培における培養液(液体肥料)が危険ということはない、と考えてよいでしょう。
水耕栽培は“病気に弱い”のか?
また、水耕栽培で育てた野菜は、病気に弱いのか?という疑問もよく聞かれます。
水耕栽培で野菜を栽培する際、病気が広がりやすいのは事実です。これは、栽培している野菜の内1つでも病気に感染した場合、培養液を介して全体に感染が広がってしまう可能性があるためです。
そのため水耕栽培ではまず、病気が発生しないようにするための工夫が多くおこなわれており、栽培開始前に
- 熱もしくは太陽熱による殺菌
- 紫外線による殺菌
- オゾンによる殺菌
など、多様な工夫を行うことで“まず発生させない”ことを第一としています。
土耕栽培における土壌殺菌には農薬が多用されることも
一方、土耕栽培にも問題点があり、同じ土壌で同一の野菜を作り続けると連作障害と呼ばれる「生育不良」等が発生します。
この連作障害は、大きく分けて肥料分の偏りや土壌病害虫により発生するといわれていますが、土壌病害虫防除に対しては農薬が多用されています。
確かに、水耕栽培は1度病気が発生すると広がってしまうという欠点をかかえていますが、だからこそ病気が発生しない工夫がおこなわれているのです。
一方、土耕栽培では病害虫による連作障害の予防のために農薬が多用されるのが事実です。このことから、野菜の安全性としては水耕栽培による野菜の方が安全であるとも考えることができます。
適切な管理を行えば、農薬使用量が少なく済む栽培法
今回は「水耕栽培による野菜が危険なのか?」ということに焦点をあてました。
一般的な土耕栽培では連作障害の回避のため、野菜を植える前の土壌消毒に農薬を多用する例もあります(環境に配慮し、太陽熱殺菌をする例もあります)。
一方、水耕栽培では培養液を適切に処理し、入れ替えるのみで連作障害を回避できることから、余計な農薬を使用する必要がありません。
このことから水耕栽培で生育させた野菜は危険ということはなく、適切な管理をおこなえば、土壌で栽培する野菜に比べて安全・安心な野菜を食卓に届けることも可能な技術と言えます。