空間を縦に利用する垂直農業
2020.12.3水耕栽培
これからの農業における1つの形態として、垂直農業(vertical farming)が注目されています。農業といえば、どこまでも続く畑で野菜を栽培するイメージをもつかもしれませんが、垂直農業はこのイメージとは真逆であり、栽培ベット(植物を植え育てる場所)を多層にも積み重ねることで、小面積でも多くの野菜を栽培することを目指すような農法です。
今回のコラムでは垂直農業を紹介するとともに、この栽培法のメリットと今後の課題を紹介していきます。
垂直農業とは?
例えば、葉菜類(レタスやホウレンソウなど)を生産する場合、その草丈は数十cm程度であり、これよりも上の空間は特に利用されません。
一方、垂直農業では栽培ベットを数十cmごとに積み重ねることにより、空間を縦に利用する農法のことをさします。このことから、土地利用効率の高い農法と言えます。
また、農作物の栽培には一般に土を使用するイメージがあると思われますが、垂直農業の多くでは水耕栽培をはじめとした養液栽培技術を併用することで行われているため、土がないところでも野菜などの作物を栽培することが可能です(土耕栽培と養液栽培の違いはこちら)。
垂直農業のメリットとは
垂直農業におけるメリットとして
- 土地利用効率が向上し、都市部でも農業が可能に
- どのような場所でも設置できる
という点があげられるでしょう。
土地利用効率が向上し、都市部でも農業が可能に
農業といえば広く土地のある地域や国で行われるイメージがあると思いますが、このような一般的な農法では、
- 輸送に関わるコストがかかる
- 収穫から消費者に届くまでに長い時間がかかる
などの問題点が指摘されています(1)。
一方、垂直農業では栽培ベットを積み重ね、土地を立体的に利用することができるため、土地が無い都市部でも農業を行うことも可能となります。
さらに、土壌がなくとも水耕栽培を併用することから、ビルの中などに垂直農業用の栽培ベットを設置することで集約的に野菜を栽培し、採れたての野菜をすぐに消費者に届けることも可能になります。
どのような場所でも設置できる
この採れたて野菜をすぐに消費者のもとに届ける例として、飲食店店舗や小売店内に垂直農業システムを導入する事例も検討されています。
さらに、垂直農業システムで栽培された野菜をその場で収穫・調理し、提供することも可能でしょう。
このように、空間を縦に利用することにより、どのような場所でも、農作物の生産を可能にする農法であると考えられます(2)。
垂直農業にも問題点が
一方、垂直農業に問題点がないわけでもありません。
垂直農業は屋内で多層の栽培ベットを積み重ねて行うことが想定されています。農業は一般的に野外で太陽光のもとで栽培を行いますが、屋内では太陽光が届かないことから人工光(LED)を太陽光の代わりに利用し、栽培することとなります。
さらに、建物内などの温度管理も並行して行うことが大半であることから、相応のコストがかかる点が問題となっています。
水耕栽培の技術で、収穫物に付加価値を付けることが可能
コストのかかることが指摘されている垂直農業ではありますが、この垂直農業では、土壌の代わりに培養液により植物に養水分を届ける「水耕栽培」を利用することが多いようです。
水耕栽培の特徴として、植物に栄養素を届ける培養液の組成を容易に調整できる点が挙げられます。
そのため、生産する野菜の機能性成分を増やすような工夫を行うことも可能です。
このように垂直農業は土地利用効率のみでなく
- 付加価値を付けた野菜を、水耕栽培の技術により生産する
上記のことも可能なので、高品質・高栄養化の野菜を採れたてで届けることができます。このようなことからも消費者の幅広いニーズに応える野菜を作ることができる、今後注目の農法と言えるでしょう。
参考
(1)https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/06/pdf/data2.pdf
(2)https://www.jetro.go.jp/invest/newsroom/2020/9577cd29ad91acc6.html