養液栽培(固形培地耕・水耕)と土耕栽培による違い
2020.11.2水耕栽培
近年、土を使わずに農作物を育てる方法として水耕栽培をはじめとした「養液栽培」が広まってきています。
近頃のいちご狩りを思い出してください。いちごを取るとき、地面にしゃがむ機会が減ったように思いませんか。これは、高設ベットを導入しイチゴの養液栽培化が進んだことが1つの要因であると考えられます。
また、新たな農作物生産技術として注目されている植物工場でも、養液栽培の技術が多く使用されています。
そこで今回は、多様な場面で導入が進んでいる「養液栽培」について、通常の土耕栽培との違いを紹介していきます。
土耕栽培とは?
土耕栽培とは、露地(屋外)や温室内の違いに関わらず、土壌に作物を植え、収穫物を得る栽培法のことを指します。
最大のメリットは土さえあれば栽培できるため、誰でもどこでも行うことができることでしょう。
一方デメリットは、土壌病害や連作障害が発生しやすく、幾度も同じ作物を栽培すると生育が悪くなることや病害を抑えるために農薬類が多用されることです。
養液栽培とは?
溶液栽培は土耕栽培とは異なり、栽培の過程で土を使用することはありません。土壌の代わりに肥料分を含んだ培養液により養水分管理を行い、農作物の生産を行います。
なお、養液栽培は培地の有無により、ロックウール等の固形培地を使用する「固形培地耕」と培地を必要としない「水耕」の2つに分けることができます。
固形培地耕
固形培地耕ではロックウール等の無機物やピートモス、ヤシ殻等の有機物を固形培地として使用します。この固形培地に培養液を保持させ、作物を生育させます。
これらの中でもロックウールは保水性が高く、孔隙が多いことから根の伸長に適しているため(1)、固形培地耕における培地としてよく使用されています。
水耕栽培
一方、水耕栽培では培地等を使用せず、培養液のみで作物を生育させる点が特徴です。また、水耕栽培では培地を使用しないため、固形培地耕と比べて培地更新の手間や廃棄物を削減できるメリットがあります。
最大の違いは、根(地下部)の環境条件
ここまで土耕栽培や水耕栽培を含む「養液栽培」がどのようなものなのかを紹介してきました。それぞれの栽培法において最も異なるのは、根の環境条件です。
そこで、根に対してどのように養水分や酸素を供給しているのか、それぞれの栽培法の違いをお話していきます。
土耕栽培の場合
定期的に施肥や灌水を行い、養水分は土壌に保持させます。
また、土壌中の酸素を利用して根は呼吸を行います(土質にもよりますが、土壌体積のうち3割程度は気体が占めるため、この気相中の酸素を根は呼吸に用います)。一方、肥料分の残留や土壌病害が問題となることがあります。
養液栽培(固形培地耕)の場合
養水分を含んだ培養液をロックウールなどの培地を経由して供給します。
培地は保肥性、保水性および通気性に優れ、根が生育しやすい環境である一方、使用後の培地の廃棄や消毒に手間がかかる点が問題点となっています。
養液栽培(水耕栽培)の場合
土壌や培地の存在なしに、培養液のみで作物を生育させます。
土壌や培地等が一切ないことから、肥料分の残留や培地廃棄物が発生しないことが特徴です。一方、根の呼吸のために使用される酸素をどのように届けるかが水耕栽培における1つの課題となっており、この課題を克服するために多様な水耕栽培法が開発されています。
なお、水耕栽培では根菜類(ニンジン等)を栽培することは困難と思われていましたが、培養液へ通気を行うことや水深を工夫する(2)ことにより、近年では栽培が可能となっています。
このように水耕栽培では多様な工夫が行われています。次回は水耕栽培の種類やどのように酸素を供給しているかに注目して紹介していきます。
参考文献
(1)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ecb1963/28/4/28_4_165/_pdf/-char/ja
(2)https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/7/3/7_3_439/_pdf/-char/ja