水耕栽培による塩類土壌の回避
2021.01.26水耕栽培
土壌中の塩類は植物の生育に大きな影響を及ぼします。
実際、土壌に塩類が集積したことにより農作物を正常に生育させることが困難な地域が世界には存在します。その一方で水耕栽培は土壌を用いないため、土壌中の塩類の影響を受けません。そこで、このような地域における代替策として期待される技術となっています。
今回のコラムでは土壌に塩類が蓄積してしまう原因を含め、水耕栽培の導入例を紹介していきます。
土壌中に塩類が集積すると、どのような問題が生じるでしょうか?
植物が正常に生育するためには十分な水が必要です。
植物は根で吸水するとき、「浸透圧」の差を利用して吸水をおこないます。
この浸透圧がおこなわれるためには溶液中の溶質濃度が関与します。通常は土壌に比べて根組織の溶質濃度の方は高いため、この浸透圧の差により吸水することが可能となります。
一方、土壌で塩類集積が発生すると周囲の土壌(水)の溶質濃度が高くなってしまうので植物が正常に吸水できなくなってしまいます。このことが植物の生育不良や萎れを起こす原因となります。
塩類が集積してしまう原因とは?
このように植物の生育に大きく影響及ぼす「塩類集積」ですが、諸外国における乾燥地や日本の栽培施設内においても塩類集積が進行しやすいことが知られています。
では、どのような環境で塩類集積が問題となっているのか、事例を見ていきます。
乾燥地における塩類集積
土壌中に溶けている塩類は水の移動に伴って移動します。
土壌表面では太陽熱等によって水は蒸発してしまうものの、塩類は蒸発することはありません。このようなことを繰り返すと、徐々に土壌表面では塩類の濃度が高くなります。このことを「塩類集積」と呼びます。
日本のように多雨の地域では、降雨時に地表面の塩類が洗い流されるため大きな問題となりませんが、乾燥地域ではこの塩類集積が原因で農作物が正常に育たない例があります。また、日本でも施設内など降雨の影響を受けない場所では塩類集積が問題となっています。
土壌肥料と塩類集積
土壌肥料が塩類集積の原因となる場合もあります。
土壌肥料は施肥すればするほどよいというわけではなく、過剰になる場合もあります。日本ではある程度の降雨があることから、過剰に施肥された肥料は塩類集積という形ではなく、水系(河川)へ流亡し、水質汚染の原因となってしまいます。一方、乾燥地では土壌にある過剰な肥料が降雨で流されることが少ないため、施肥した肥料自体が塩類集積の原因となり、耕作不適地となってしまう事例が散見されます。
水耕栽培は土壌中塩類の影響を受けない
植物の成長を正常に保つためには、塩類濃度を適正値に保つ必要があります。そのため土耕栽培であっても、水耕栽培を含む養液栽培であっても、土壌中の肥料分やpHのみでなく、塩類濃度の指標となるECの測定をおこないます。
土壌で塩類集積が発生してしまった場合は、除塩植物の定植や大量の水による除塩など、大がかりな作業が必要となってしまいます。
一方、水耕栽培の利点として
- 培養液を用いるため、土壌中の塩類の影響を受けない
このことから、すでに塩類集積が発生してしまった畑でも水耕栽培を利用することで農作物栽培を再びおこなうことが可能になります。
さらに、この「土壌中の塩類の影響を受けない」という点を利用した事例が日本でもあります。
日本国内では塩害の影響を受けることは少ないのですが、東日本大震災後の農地の復興方法の1つとして、あげられたのが水耕栽培です。
津波による被害を受けた農地における塩害の回避のため、実際に水耕栽培を利用した事例が報告されています。
水耕栽培は耕作不適地における農業利用に期待できる技術
このように、これまで農作物の栽培が困難であると考えられていた地域でも水耕栽培を利用することで、ふたたび農作物を栽培できるようになる可能性があります。
このことから、人口増加と食糧不足が懸念されている将来において、水耕栽培は期待の農法といえるでしょう。