水耕栽培の種類とは
2020.12.7水耕栽培
植物の安定した生育には地上部のみでなく、根の生育環境が大切です。
植物も他の生物と同様に呼吸をしており、正常な養水分の吸収には根の呼吸が大切です。土耕栽培において土壌の水はけが重要視されるのも、この点にあります。
水耕栽培では培養液のみで植物を生育させます。そこで、「いかにして根に酸素を送り届けるか」という工夫が行われ、多種多様な水耕栽培法が開発されてきました。
今回のコラムでは、水耕栽培法の種類の中から「根の酸素条件」に注目して紹介していきます。
湛液型循環式水耕(DFT)
湛液型循環式水耕とは、根の全体や一部を培養液に浸かった状況で生育させる方式の水耕栽培で、Deep Flow Techniqueの頭文字をとりDFTと呼ばれています。
DFTの基本的な構造と特徴
培養液はタンクで原水と肥料の原液を混合して調整します。また、設定水位になるようにポンプ等でベット(栽培槽)に湛液し、植物の根系(地下部)を培養液中に浸けて生育させる方法です。
培養液量が他の水耕栽培より多いことから栽培槽の強度は必要ですが、培養液の環境制御(温度制御や肥料濃度の調整)が容易であるといわれています。
DFTにおける通気法
DFTでは根系が水没していることから、
- 曝気装置により培養液に空気を送る
- 培養液を循環させ、空気を取り込みやすくする
- ときどきベットの水深を変え、根の一部を空気にさらす
などの多様な根系への通気方法が考案されています。
薄膜水耕(NFT)
薄膜水耕は、栽培ベット上に薄く流した培養液による水耕栽培で、Nutrient Film Techniqueの頭文字をとりNFTと呼ばれています。
NFTの基本的な構造と特徴
主にフィルム製の「チャンネル」と呼ばれる栽培ベットの上に培養液タンクからの培養液を薄く流し、植物を生育させる方法です。
培養液が適度に流れるよう、1/70~1/100の緩い傾斜がつけられています。なお、DFTに比べ培養液が少なく済む一方、培養液環境が変化しやすいと言われています。
また、チャンネル自体が軽いため高設栽培化も容易です。そのため、イチゴ狩り園などでは、しゃがまずにイチゴ狩りができるなど、身近なところでも導入されています。
NFTにおける通気法・根系の状況
NFTでは、根の大半が空気中にあることから、
- 根が酸素不足に陥ることが少ない特徴があります
その一方で定植直後など植物が小さく、根系が小さい場合は培養液を十分に吸水できない場合があるため、植え穴(植物を植える場所)に少量の培養液を貯めることができるような工夫も行われています。
他にも、多様な水耕栽培の種類があります
毛管水耕:培養液は吸水マット等の毛細管現象により、吸水させ植物に届けます。一方、根は水没していないことから十分に酸素を得ることができる栽培法です(1)。
パッシブ水耕:植物が生育するために必要な培養液を水槽にためて置き、補充はしない水耕栽培法です。途中で水位が下がることで根が空気中にさらされますが、容器内は多湿環境であることから根自体は枯死しにくい条件にあります。一方、空気中にさらされているという特徴により、酸素の供給にも役立つといわれています(2)。
噴霧耕:植物の根系に向けて培養液を噴霧し、生育させる栽培法です。根系が空気中にあるため、酸素の吸収が容易であることが特徴です(なお、噴霧耕は水耕栽培とは別に区分される場合もあります)。
植物の生育と酸素の重要性
水耕栽培の種類について根の酸素利用可能性も含めて紹介しました。
ここまでの話から「なぜ、イネは水田(地下部が水没)でも生育できるのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
これは、イネ植物体内にある“通気組織”と呼ばれる組織が葉から根に向けて酸素を輸送し、根で利用する酸素を確保できているためです。
一方で、多くの植物はこのような仕組みが備わっていない場合が多く、短期間の地下部水没であっても根が腐敗し、時には植物体の枯死に至ります。、これは地下部の酸素欠乏が原因であると知られています。
そのため、根の酸素利用可能性は植物の生育にとり重要な要素であることから、水耕栽培でも多様な通気法が考慮されるなど、開発が進んでいるのが現状です。
参考サイト
(1)https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=13845&item_no=1&attribute_id=65&file_no=1&page_id=13&block_id=45
(2)http://www.naro.affrc.go.jp/org/karc/qnoken/qnoken/no50/50-201.pdf
(3)https://academic.oup.com/treephys/article/17/7/490/1617839